message

「虚構の世界」を変える力

広告は虚構の世界と言われてきた。

広告に登場する家族は、
温かく恵まれた家族だ。仲が良くて、子供は利発で聡明。

広告に登場する会社は、
活気にあふれた雰囲気で、
スマートな上司が、これまたスマートに部下を指揮する。
洗練されたオフィスで生き生きと仕事をしている。

広告に登場する営業マンは、
お客様思いで、おばあちゃんの話も親身になってきく。
坂道でカゴから落ちたリンゴを追いかけるような
一生懸命で地域に馴染んだ人だ。

広告に登場するおばあちゃんは、
ゆったりとした個人部屋が与えられ、
優しい家族たちに気遣われて生きている。

こんなの、どこにもいないと思いながら見ている。
何一つ曇りなく明るい、虚構の世界。

数年前に亡くなったのだけれど、
岡泰道さんという天才CMプランナーがいました。
生前の岡さんが、そういう嘘っぽいCMを作るのが
どうにも耐えられないというような発言をしていた。
その気持ちがすごくわかるのです。
長く仕事をしていればいるほど、
その嘘っぽさが辛くなってくるのです。

確かアウスレーゼという男性化粧品だったと思う。
岡さんが手掛けたCMで好きなものは多いのだけれど、
このCMを僕はいちばん好きでした。
You Tubeを探してみたけれど、ついぞ見つけることができなかった。

田口トモロヲさんが演じる男性が主人公。
娘と遊園地に出かけるために、身支度をしている。
鏡を見ながら、自分の姿をチェックしている。

娘との出会い。そこには母親がいない。
二人のやりとりから、離婚した夫婦であることがわかる。
多分月に一度しか会えない娘。
月に一度しか会えないから、カッコいい父親でありたいと思う。

最後に娘を迎えに来た別れた妻と笑顔を交わす。

そんなCMでした。

僕はこのCMのリアリティがすごいと思ったのです。
そして、この企画を受け入れた得意先もすごいと思った。

すごいことというのは、制作者と得意先が共犯関係にならないと
実現しないものだと思います。